* 心、伝われ   天真×イノリ




 つたわれー 
 
 
 
 
 
 
 
イノリは椅子の背もたれに顎を乗せて、レポートを書く天真の後ろ姿を穴が開くほど見つめていた。
しかし、天真は全く気付かない様子で黙々とペンを動かしている。
イノリは心底面白くない気分で表情をむすっと曇らせた。それでも天真は手を休めない。
イノリの方を振り向こうともせず、ただひたすらにカリカリとペンの音を響かせている。
椅子の上で足をぶらぶらと遊ばせながら、再び少年はオレンジの頭をじっと見つめる。
 
 
 
 
 
 
つたわれよー
 
 
 
 
 
 
イノリはひたすらに念じる。すると、天真がぴくりと微動した。
期待して身を乗り出すのだが、裏腹に天真は大きくひとつ伸びをすると再び紙にペンを走らせる。
がくり、と肩を落として。
苛立ちが最高潮に達したイノリは、テーブルの上にあるみかんをひとつ、手に取った。
そのまま天真目掛けて力一杯投げつける。
みかんは綺麗なカーブを描いて、見事、天真の頭にクリーンヒット。
 
「っで!!」
 
突然の不意打ちに天真は咄嗟に頭を押さえた。きょろきょろと頭上を見渡す。
そんな青年を見ながらイノリは緋色の瞳を細めて悪戯っぽく笑った。
暫くすると彼は床に転がるみかんを発見したようで、片手で鷲掴みにすると怒号と共にイノリへと投げ返した。
 
「何やってんだよお前は!」
 
飛んでくるみかんを受け止めながらイノリは唇を尖らせる。
気付かない方が悪いんだ。
その言葉が喉まで出掛かっていたが、零すには今一つ勇気が足りなかった。
だからこうして俯いたまま足をぶらぶらと遊ばせ続けている。
天真は押し黙っているイノリを一瞥すると、呆れたようにひとつ溜め息をついた。
指で回していたペンを机に置き、立ち上がって膝を払う。
 
「ほら」
 
大きな手の平を広げて。
天真は小さな赤い頭をわしゃわしゃと撫でた。
見た目よりも柔らかい髪は天真の指に絡んではそっと解けていく。
イノリは思わずぎゅうと瞼を瞑り、乱雑な彼の手を甘んじて受けた。
 
「あー、その、なんだ」
 
こほん、と天真はひとつ咳払いをした。
見上げると、照れ臭そうな顔がそっぽを向いている。
 
「あんま見てんな、わかってっから」
 
その言葉にイノリは破顔した。
 
 
 
「分からず屋」
「どっちがだ」
 
 
 
 
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