「だーっ、友雅! お前もちっとは手伝えよ!」
掃除機の行く手を阻む友雅に思わず天真が声を荒げる。
友雅はそんな苛立った様子の天真に鬱陶しそうな視線をちらりと投げ、再び床に広げた経済紙へと戻す。
「何故私が君のことを手伝わなければならないのかな?」
「二人でやった方が早く大掃除終わるだろうが!」
友雅はもう視線をやることすらなく、ただわざとらしく盛大な溜息をひとつ吐いた。
「散らばっているのは君の持ち物だけだろう」
「う」
「私が手伝う義理はないね」
さらり。
軽々と天真の苛立ちを受け流して彼はページを捲る。
ここまで正論を並べ立てられると、さすがの天真も歯軋りして地団駄を踏むことくらいしかできなくなってしまう。
元々天真は出したら出しっぱなし、使ったら置きっぱなしの癖があるのに加えて持ち物が多い。
貧乏性なのか物を捨てるのが苦手らしいのだ。
それに対して友雅は元々最低限の持ち物しか好まない為、結局散乱するのは天真の物ばかりになるという訳である。
天真は頭をがしがしと掻いて、言い捨てるように。
「わかった、勝手にしろ。ただし邪魔だけはすんなよ」
「元々君から突っかかって来たんじゃないか」
「うるせえ、黙って新聞読んでろ!」
ふん、と鼻を鳴らして天真は掃除機を抱えた。
まだまだやらねばならないところはたくさんあるのだ。
「お前の部屋、掃除機かけてやらねえからな」
「構わないよ。前回かけてからそこまで経っていないからね」
「〜〜〜……ほんっと、癪に触る奴!」
子供のように舌を出し、天真は自分の部屋へと入っていった。
最後の抵抗のようにばたんと力任せに扉を閉める。
振動が床を伝わって友雅の背筋に響いた。はあ、ともうひとつ溜息をつく。
つくづく手が焼ける子供だな。
広げていた経済紙を四つ折りにして畳み、紙袋に投げ入れる。
特に興味深い事象が載っていた訳ではないのだ。
ただ、少しあの男の邪魔がしてやりたかっただけで。
全く分からない奴だ。
仕方ないので他の方法を考えてやろうと思う。
もっと天真を苛立たせ、掃除から目を離させるような思い切った作戦が必要だ。
そうだ、先程彼が掃除機をかけていたキッチンでインスタントコーヒーを零してやろうか。
そうしたら天真はすぐに駆けてきて、困ったような笑ったような顔で友雅に怒号を飛ばすだろう。
そこまで考えて、友雅は苦笑いを浮かべた。
これではどちらが子供なのか分からないな、と。
それでもいい。整頓された部屋よりも、ある程度散らかっている部屋の方が賑やかでいいではないか。
だから友雅は部屋の中に閉じこもっている天真に気付かれないように忍び足でキッチンへと向かう。
さあ、五月蝿い大晦日を過ごそう。
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