あかねの目の前には自分の身長よりも高いツリーがそびえている。
先端は今にも天井を擦りそうで、きらきらと引っ切り無しに輝く星が目に眩しい。
友雅のマンションにそのクリスマスツリーが飾られたのはクリスマスイヴのことだ。
あかねがリビングに通されると、前日までは何もなかった空間にどーんと大きなツリーがきちんと飾りつけをして置かれていたのである。
あかねが慌てて友雅に尋ねると。
あかねが喜ぶだろうと思って。
それだけの理由で大人買いをしたらしい。
流石、こちらの世界に来ても上手にやるものだ、とあかねは喜ぶよりも先に妙な感動を覚えたというものである。
しかし、今は大晦日前日。
あかねはクリスマスツリーを見上げながら、腕を組んで考え込んでいた。
「どうしたんだい、あかね」
あかねが家にやってきて機嫌の良い友雅は、背後から彼女を包み込むようにして抱き締めると桃色の髪にそっと口付けを落とした。
あかねは腕の中でくすぐったそうに身を捩ると、肩越しに友雅を見やる。
美しくカールした深緑色の髪があかねの頬を撫で、するりと肩に落ちた。
「友雅さん、このツリー……片付けないんですか?」
「何故だい? このままでも十分華やかで美しいじゃないか」
「だってほら、なんか年越しって感じがしなくって」
友雅はちらりとツリーに視線をやり、暫しの間考え込んだ後に再びあかねの肩口に顔を埋めた。
「ねえあかね。現地の国ではね、くりすますと新年を同時に祝うそうだよ」
「片付けるの、面倒なんですね?」
無言の間が続く。
やがて友雅は沈黙に耐えかねたようにあかねから身を離し、あかねの肩を掴んでくるりと自分の方を向かせた。
半ば困ったような表情の微笑みを浮かべながら、間近で目を合わせる。
射抜くように見つめられるとあかねはどうも弱い。
相変らず慣れない視線にかあと頬を染めた。
「どうしても、片付けなきゃ駄目かい?」
けれど、それとこれとは別だ。
「片付けましょう?」
あかねが負けじと笑い返すと、友雅は遂に諦めた様子でがっくりと頭を垂れた。
子供のように唇を軽く尖らせている。
あかねが友雅の笑顔に弱いのと同じくらい、友雅もあかねの笑顔に弱いのだった。
枝に吊り下げているオーナメントを指で摘み始めた友雅をあかねは微笑んで眺め、自分自身も巻きつけてある綿を外す。
枝に絡まっている繊維を丁寧に解しながら外していると、このツリーを一人で一生懸命に準備している友雅の姿が目に浮かぶようだ。
どんな表情でオーナメントを配置していたのだろう、と想像すると思わず笑みが零れた。
おや。
友雅が唐突に呟いた。
「一番上の星に手が届かないねえ」
「あ。なら踏み台か何か持ってきましょうか?」
「いや、いいよ」
ひょい、と。
まるで猫か何かでも抱き上げるかのように友雅はあかねを抱き上げた。
「とっ、友雅さ……!?」
「さ。取っておくれ」
「駄目! 重いから降ろしてください!」
「あかねがそれを外したら降ろしてあげるよ」
あかねは真っ赤な顔で、それでも言われた通りに頂上の星を手に取った。
友雅はよく出来ました、とそれだけ言うとあかねを抱きかかえたまま寝室へと歩き出す。
「やっ……こら、友雅さんってば! 降ろしてくれる約束だったでしょう!?」
「何処に降ろすかとまでは約束していないはずだよ」
「ツリー自体の片付けがまだですし!」
「後で後で」
結局、翌日の朝になってもツリーは質素な面構えでそこにそびえていたのであった。
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